ロナドラ/小説/A5/オンデマンド/44p/全年齢/500円
2026/05/06 SUPER COMIC CITY 33 -day2- 銀弾と踊る月
東1け45b「gaslight_red」
10年後ロナドラと事務所組詰め合わせです
捏造に捏造を重ねた解釈本となっています
サザエさん時空ではなくきっちり10年時が経っています
ロナドラを根底にいろいろな矢印が登場しますが、ロナルドもドラルクも他に矢印を向けることはありません
死ゲ→ドラは恋愛感情ですが、ジョン→ドラ、メビ→ロナは恋愛感情ではありません
ロナルドと死のゲームは互いに恋敵だと思っていますが友人でもあります
オリジナル吸血鬼います
キンデメ、死のゲーム、ロナルド事務所メイン回の三篇です
『水槽 買い替え いつ』 検索、とエンターボタンをぽちっとやって出てきた記事をいくつか見比べながら、やっぱそろそろ必要だよな、と腕組みをしながら背もたれにもたれかかった。 キンデメがうちにやってきて八年だか九年だか、そんくらいだ。最初はVRCに水槽の設備はないし保護するにも準備が必要とかつって押しつけられたわけだけど、あそこに水槽がないわけがない。準備ができるまでってことでうちに来てもらって、ずーっとそのままになっている。完全に忘れられてんだよな。 サテツんちで昔使ってた水槽ゆずってもらってっから、水槽の寿命的には本気でそろそろ、むしろアウト気味なかんじだ。買い替えるとしたらもうちょい広いやつのがいい気がする。キンデメ、来たときよりちょっとでかくなってるし。 せっかくだから水草とかポンプとか新調できるやつは全部しちまったほうがいいよな、となんでも書いているノートにリストアップしていく。俺は結構こういう下調べみてえのが好きだ。 ボールペンでがりがりといくつか書き出して、ふと、本人にも好みがあるんじゃねえのかと気づいた。 普通のデメキンだと意思疎通はできないが、うちのキンデメは吸血鬼である。忘れがちだがきっちりしゃべれる吸血鬼なのだ。会話ができるってまあまあ上等な部類の吸血鬼のはずなんだけどな、とボールペンの尻で頭を掻きつつ、ノートとともに席を立った。 「キンデメ、いまいいか……って、あれっ」 居住スペースのほうへ続くドアを開けてすぐそこの水槽に声をかけようとして、いつもの場所がすっからかんなことにぎょっとする。 いやおかしいだろ。水槽だぞ?うちのあの貧弱がどうこうできる重さじゃねえはずなんですけど? ジョンが最近筋トレがんばってるからとかのがまだ納得できるけど、なんて考えつつ、自分よりふたまわり大きな水槽を持ち運ぶアルマジロを思い浮かべて首を振る。さすがに無理があると思うんだ俺は。 靴を履いたまま部屋を覗きこんでかたまっている俺に、死のゲームが「師匠なら風呂場ですけど?」と教えてくれた。 「風呂入るにゃ早くねえか」 「水槽の掃除ですよ」 いま水槽の場所見てましたよね、とちょっと呆れたみたいな声を出されて思わず口ごもる。いやドラ公だぞ?水槽持ち上げられるわけねーだろ。キンデメ出して、水も出して、ほとんどからっぽにしても無理だろ。ドラルクなんだぞ?! 頭の中がパニックになりかけるけど、耳をすませば確かに部屋の奥から水音がする。 え、マジで?いつのまにそんな筋肉がついたってんだよ。死なずに水槽持ち上げるのって可能なのおまえ?! うろたえつつもとにかく風呂場に向かってみると、フンフフーンと音のはずれた鼻歌とともにジョンやキンデメの声が聞こえてきた。おい。本気で水槽洗ってんの?!なんで俺呼ばれてねえんだ?!家事のなかで唯一俺のテリトリーだと思ってたんだぜそれ! 「ドラ公おまえ、なん、な、何!」 「何って、水槽の水換えてるんだよ」 「うちの水槽足なんて生えてなかったですけど?!」 「知らなかったの?最近生えたんだ」 自分で歩いて水場まで来てくれるから私にも掃除できるようになった、なんて楽しそうに笑う吸血鬼の足元で、水槽がおじぎのつもりなのか四つ足でわきわき屈伸してくる。中身がちゃぷちゃぷ揺れるのを見下ろしながら、あの足って出っぱなしなのか?しまったりできんのか?とか考えはじめたのがバレたのか、水槽はぴたりと動きを止めるとその場でしゅっと足をひっこめた。いやどうなってんの?亜空間に消えた? 『ぐぶぶ……ロナルドは原稿に詰まると掃除を忘れることも多々だったからな……我輩としても住処が吸血鬼化するのは歓迎である』 「歓迎なの?!」 思わずでけえ声をあげてしまうが、いまこの場には吸血鬼か吸血鬼の眷属しかいない。きょとんとした視線に囲まれて、なんだよ俺がおかしいってのか、といつもなら常識魚枠のキンデメが味方になってくれねえのにがっくりと腰をおろす。 「……前みたいにじいさんの薬で一時的にとかじゃあなく?」 「千代に八千代にこの事務所あるかぎり我らとともにあると思うぞ」 言いながら水槽のふちを撫でるドラ公に、ジョンがほんのちょっとだけ頬をふくらませた。そうしていそいそと甘えた声で自分も撫でてほしいとゴム手袋をはめたドラ公の手元に近づいていくが、ドラ公はこれ終わったらね、とジョンを撫でることはしなかった。泡がつくのを嫌ったんだろう。 けれどもジョンはドラ公の気遣いを逆手にとって、じゃあ我慢するからおやつはジョンの好きなものにしてくれる?と更にねだる。もちろんいいとも、と目元を優しくする吸血鬼を眺めながら、俺もジョンを見習うべきだな、と心の底でぐっとこぶしを握った。 「若造、納得したんならドア閉めろ」 「おう。テメーと一緒にいるんなら甘えるときは強気でってことだな」 「いやなんの話?!」 「ジョンの百九十年にはかなわねえけど、俺だってそろそろ十年経つ。強気でぐいぐいアレすべき。よし。あ、ロナルドですよろしく」 水槽に向かって頭を下げれば、知ってます、というようにあっちからも会釈のような屈伸が返ってくる。 吸血鬼は吸血鬼を寄せやすい。それは集まってくるという意味だけでなく、発生させやすい、という意味も含むのだと忘れがちだった事実をしっかり頭に叩きこんだ。 つまり、ドラ公がここにいるかぎり、家も事務所もそこかしこでこうやってツクモ吸血鬼に変化してもおかしくないってことなのだ。前みたいに引っ越してきて時間経ってないならともかく、十年ここにいるってことは、ドラ公に世話されてきたなにかしらである。この水槽みたいにはじめからドラ公に従順なのが多いだろうし、なによりつくも吸血鬼になってもドラ公はこいつらを変わらず世話していくだろう。 つまりだ、あいつもこいつもそいつもドラ公に甘やかされる存在だ! 「ウオオオオオオオオッ!」 「突然なんだ!威嚇?!」 「牛乳買ってくる!」 「は?!急にどうした!」 冷蔵庫にまだあるだろ、という声を背中に、急いで風呂場を出て事務所も飛び出す。 牛乳はあるけど特選牛乳はなかったはずだ。 他のライバルに差をつけるなら俺にしかできないことをやったほうがいいに決まってる。 真夜中の街を駆け抜けながら、牛乳買ってくる以外にできる家事ってなんかあったっけか、と頭をごりごり回転させた。
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「あー……ご覧のようにロナルドという男は八割ゴリラで話が通じないあほなわけだが、十年以上事務所を続けられる甲斐性だけはあるから安心したまえ」 どうして私が若造のフォローをしなきゃならんのだ、と眉を寄せつつ溜息を吐けば、水槽くんは大丈夫だとでも言うようにちゃぷちゃぷと中の水を揺らした。 これまで水槽を洗ってきたのはロナルド君である。恩は感じているんだろう、とほっとして肩をすくめる。 「君ももう少ししたらしゃべれるようになるのかね?ツクモ吸血鬼は生まれた瞬間から会話できるものもいるんだけど」 『ぐぶぶ……我輩としても話し相手ができるのは歓迎するぞ』 ヌヌヌ!とジョンもちいさな手のひらをぴっと挙げてくるので、私の城の住民は仲が良くてなによりだ、と城主として顔をほころばせた。 ジョンを筆頭に、メビヤツ、キンデメ、死のゲーム。 人間以外の住民ばかりの我が城は今後もこうやって人間以外が増えていくのだろう。城主として背筋をのばさねば、とうむうむうなずく。 「あ、そうだ。水槽くん、ツクモ吸血鬼になったなら血が必要になる。どんなタイプで摂取したいとか希望はあるかね?水槽の中の水に溶かすので大丈夫?」 その場合キンデメも摂取することになりそうだが、と首をかしげていると、水槽くんは動きをぴたりと止めて、それからこまったようにゆらゆらと揺れた。 「なるほど、自分でもわからないかんじ?ならひとつずつ試していこう。時間ならいくらでもあるからね」 末永くよろしく、とにっこり微笑むと、水槽くんもうれしそうな気配をかもしだす。吸血鬼どうしだからかほんのりとした意思は伝わるようだ。ならば会話ができずともどうとでもなるな、と口角を上げる。 中断していた清掃をやりとげ、中に入れていた小石もぴかぴかにした。ロナルド君の洗い方だと底の汚れが残っていてずっと気になってたんだよね。 キンデメの希望なども聞きつつ、水槽の中を整える。 脱衣場で水槽の足を拭いてやるのは新鮮でなかなか楽しかった。 キンデメの入った金魚鉢をかかげたジョンが先に出ていくのを見送って、水槽くんだけを呼び止める。 「ひとつ、覚えておいてほしいんだがね」 短い足をにょきりと出していた水槽くんがちまちまとした足つきでこちらに振り向いた。ゴム手袋を干してからしゃがみ、水槽のふちを指先でついと撫でる。 「ご存じのとおり、うちの事務所は吸血鬼に優しい。君が望むかぎり永久にここでともに暮らすのもたやすいとも。けれどひとつだけ守らねばならんルールがあるのだ」 他は何したって受け止めるふところはあるぞ、と楽しいことが好きだからねとアピールをすれば、水槽くんはちゃぷんと水を揺らし、自分も楽しいことが好きだと同意してくれる。なかなかうちの事務所にふさわしい性格のようだ。 常識人であるキンデメも、私に従順な死のゲームも、もちろんできる使い魔であるジョンも、元は備品であったメビヤツも、なんだかんだたいていのことは楽しんでしまえる度量がある。だからこそけじめというものが必要だった。 「――いいかね。ここにいたいならば、ロナルドから血を奪おうとするな。吸血欲求を抑えろ。栄養ならば私が与えてやる。若造から血を奪おうとだけはするな」 それだけ守ればここは楽園だとも!と笑みをつくってやると、いつのまにかフリーズしていた水槽くんはちゃぷんと水面を揺らした。ほのぼのとまとっていた空気が冷えているのを眺めつつ、おや、と片方の眉を上げる。 「いまの私ちょっと畏怖かったんじゃないかね?」 ンッフッフ!と肩を揺らしながら立ち上がると、足元で水槽くんがちゃぷちゃぷ肯定してくれる。え、ほんとにそんな畏怖かったかね?畏怖練の成果かもしれんな! ちまちまと水槽くんが短い足で歩いていくのを見下ろしながら並んで歩けば、定位置の前に来てふと、さっきは飛び降りたがこれどうやって上にいくんだねと首をかしげてしまう。 持ち上げなきゃいけないんなら若造待ちだぞ、とまたたいていると、水槽くんは短かった足をにゅうっと伸ばして一人でぬるっと定位置に戻っていった。 「便利だねえ!」 思わずちいさく拍手をしつつ、ジョンからキンデメの入った金魚鉢を受け取る。そうっとキンデメを流し入れれば、ぴかぴかになった水槽でキンデメは満足そうにぐぶぶと笑った。 吸血鬼海の家や吸血鬼カラオケルームを見たときにも思ったが、体内に他の存在を入れる系の吸血鬼って私ちょっと緊張しちゃうんだが、キンデメはそうでもないようだ。 吸血鬼の周りが吸血鬼化しやすいといっても、常に眠っている棺桶や身に着けているマントが吸血鬼化することはまれだ。少なくともうちの一族にはいないはずである。 けれども無論、求められれば、そのかぎりではないのだ。キンデメ、たまに会話にくわわってきてのんびり過ごせればそれでいいというかんじなのかと思っていたが、住処を吸血鬼化させるなにやらの望みがあったのか。 「……若造、もしかしてかなり掃除へただったとか?」 『そうでもないが……?』 ならば何が望みだったのだとあごに手を当て考えていると、まあ、とキンデメがぼそりとつぶやく。 『この家に常識人枠が足りないとは思っている……』 我輩の負担がでかい、と嘆くキンデメに、おやおや、ならば水槽くんがしゃべれるようになるのも時間の問題だなと口角をあげた瞬間、ゆらっと水面が揺れた。 「――ぼく、がんばってじょうしきおぼえます!」 「おお!成長度A!もうしゃべれるのかね!」 「はい!」 ふんす!と鼻息すら聞こえてきそうな気概に目を見開いていると、水槽の中でキンデメがぐるぐるとうれしそうに周回した。 『ぐぶぶ……素直はなによりの能力である……!』 「よろしくおねがいします!」 きゃっきゃと楽しそうな師弟オーラをかもしだすキンデメたちに、なるほど、話し相手を歓迎するというのは心底からの想いだったのだろうと納得した。ジョンとも死のゲームとも微妙に話が合わんものな。 ジョンや死のゲームは私の味方、メビヤツはロナルド君の味方だ。完全な中立というのはキンデメだけで、だからこそ常識人枠として忙しい。 保護したのもロナルド君で、水槽の清掃もこれまでほとんど若造の仕事だった。ならば若造の側につくのが当然の流れかとも思うが、ここで中立をとれるのがキンデメさんたるゆえんである。 そもそもキンデメは最初から人間の言葉をしゃべる吸血鬼だった。これは実際めずらしい。死のゲームや海の家などの人間につくられたツクモ吸血鬼なら納得もできるが、キンデメの生まれは魚である。よっぽど人間としゃべってみたいと思っていないと吸血鬼化してもしゃべれないことが多いはずだった。 キンデメの場合、おしゃべりが性癖のようなものかもしれん。我が名は吸血鬼おしゃべり大好き、と名乗りをあげるキンデメを想像し、うむ、とうなずく。平和でなによりの能力だ。 メビヤツもそのうちしゃべるようになるかね、と首をかしげるが、おそらくこのままだろうなと結論を出す。あの子はロナルド君のそばにいられればそれでいいというような思考だ。そもそもが侵入者撃退装置だからな、門番は会話を好むようなものではない。 ジョンの場合はジョンが私の言葉を使えるようになるよりも、私がマジロ語を習得するほうが早かった、などと思い返す。 私以外に話し相手のいなかったジョンはその後人間の言葉を覚えなかった。新横浜に来てからもしゃべるようになる気配はない。 ロナルド君もマジロ語使えるようになってきたしなあ、と腕組みをしながらしみじみしていると、ヌーヌヌヌ?とかわいい使い魔が足元からちょこんと見上げてきた。 「いや、うちの使い魔はかわいいだけじゃないなと思っていたのだよ!」 ウフフ!と抱き上げながら笑いかけると、ジョンは私の言葉を素直に受け取ったからか、ヌヒッと顔をほころばせた。自分が相手の言葉を覚えるのではなく、相手に自分の言葉を覚えさせる。なかなかの魅了パワーだぞ!と両手で抱きあげたままくるくるとまわる。 ふと、隣からがちゃりと扉の開く音とともにばたばた小うるさい足音が続いた。カウントダウンをする間もなくばたん!とすぐそこの扉が開いて乱れた銀髪が飛びこんでくる。 「ぎゅ、ぎゅうにゅうかってき、た……!」 「……う、うん。ご苦労様?」 買ってきてとか頼んだ覚えもないが、とジョンとともにまたたいていると、ぜえぜえと肩を揺らしていた男はフーッと長く息を吐き、ぱっと視線を合わせてくる。うーわ、かっっっこいいなこいつ。何があったか知らんが退治のときみたいな目になっちゃってる! 「……ほ、ほめて」 「は?」 「えらいって言ってくれ……!」 えらいだろ俺!とずいと寄ってくる男からふわっと汗の匂いがして一瞬灰になりかける。何がどうしたか知らんが、ともかく五歳児はおつかいできてえらいねをご所望らしい。 ヌオッとどんびきしているジョンを左手でかかえ、右手でそっと銀髪を撫でた。腕の中から、え、そこで甘やかしちゃうんですか?という使い魔の声が聞こえる気がするがしょうがないでしょ!私がこの顔に弱いの知ってるだろうジョン!そりゃ甘やかしまくった結果がこのバブちゃんだというのは反省するとこだが、イケメンの性格を私が変えたと思うと畏怖欲に似たかんじのアレがある! 「えらいぞ、ロナルド君!」 「へ、へへ!だろ!」 へろっと笑う顔はいかにも無防備で、これがシンヨコで一番の退治人かと思うと征服欲すらぎゅっと満たされた。