片思いジョセフがシーザーに一番におめでとう言いたくてなんやかんや理由つけていろいろする話
イタリアのハッピーバースデーの歌はハッピーバースデーの代わりに「たくさんの幸せが訪れますように」を繰り返す歌詞なんだそうです
めっちゃ素敵と思ったのでタイトルにしました
Tanti auguri a te,
Tanti auguri a te,
Tanti auguri a caesar,
Tanti auguri a te!
2020/05/13/pixiv
片思い相手のお誕生日を知っちゃったら、あわよくば独り占めしてえなーと思うのは間違ったことでしょーかッ? いいや、間違っちゃいないね、と初恋でねじが五、六本どっかいっちゃってるジョセフ・ジョースター君は思いますね。独り占めってめっちゃいい響きじゃんね。あいつ丸ごと俺のモノ!って想像するだけでどきどきもんよ。 とはいっても、俺とあいつはただの友達で、俺の片恋相手ことシーザー・A・ツェペリさんといえば皆に好かれる人気者だ。当日俺ひとりだけにおめでとう言われてよ、なんて言えるだけの心臓はねじが抜けててもさすがになかった。 だからせめて、一番最初におめでとうって言うにはどうしたらいいのかって考えた。 つつましくもいじらしい思いつきだろ?あらやだカワイイって俺の中のオネエチャンは言ってくれるけど、カシコイ僕ちゃんはあからさまにばかにする顔をしてくる。カシコイだけじゃあ恋はできねえのよってオネエチャン言ってやってよほんと。 「なあシーザー、今日オメーバイトないんだっけ?」 そういえば、ってかんじでポーカーフェイスを装いながら問いかければ、何も知らない男は「ああ」と返事をくれる。誕生日前日ってことでかわいこちゃんのために空けておいたのかも、とふと思うけれど、思うだけにとどめておいた。 こいつに惚れてるやつがいるのかどうかは知らない。調べてみたくもあるけど、知らないままでいたほうが幸せってなんとなく思っちゃってるわけね。ちょっと前まではとっかえひっかえだった、なんて風の噂に聞いたけれど、最近はとんとご無沙汰だ。 その理由も噂に聞いたぜ、どうやら本命ができたらしいとか、最後の恋人に手ひどくフラれたらしいとか、勃起しなくなったのだとか、つまり皆好き放題言ってる。 でも、俺の見たところシーザーって男はクソ真面目で、もしかして噂は全部正解なんじゃねえのかって思うね。付き合ってた子とは違う相手に惚れて、フラれて、勃起しなくなった。どうよこれピッタシってかんじしねえ?ま、この推論は恋人もちの男が惚れちまうくらいいいオンナがいないと成り立たないんだけど、そこはそれ、男の夢ってやつですヨ。 ま、当日は譲ってやるから前日くらい俺にちょーだいね、とこっそりとどきどきしながら今夜遊ぼうと言えば、男は軽くうなずいた。簡単すぎてびっくりするほどだ。イタリアでは誕生日を盛大に祝う文化ってのはないんだろうか。文化の違いってやつかしらん。 しかし、こっそりときめきをもらうぶんには俺だけが楽しければそれでいいのだ。 「あのさ、俺んち来ない?ばあちゃんが送ってきたオレンジがめっちゃあんの」 「いつだかもらったマーマレードのおばあさまか?もしかしてまたもらったのか」 「おうよ」 ばあちゃんが送ってきたのは原材料でマーマレードに加工したのは俺だけど、味が気に入ってるんならそんなのどっちでもいいだろう。誕生日プレゼントどうするか悩んでたけど、マーマレードもいいかもな。『そういやオメー明日誕生日だっけ』なんて言いながら気軽に渡せそうじゃん。お、マジでこの案いただきだわ。 本当はこいつの欲しがってた時計とか似合うだろう服とか贈りたいけれど、そんなもん突然渡されたら怪訝な顔をされるに決まっている。ああいうのは恋人同士だとか、友達にしてももっと気心の知れた間柄で贈るものだ。その他大勢の俺が渡していいもんじゃあない。 来年くらいにはぱーっ!と祝えるくらい仲良くなってるといいんだけど、と一年かけての野望にこっそり息を吐く。 とにかく、今年は一番はじめのハッピーバースデーを奪えればよしとする。ジョセフ君の恋心はとっても燃費のよい感情だ。 「確かオメー五限あるんだよな?俺先帰ってるから終わったら俺んち集合でよろぴく」 そのあいだにマーマレード作って、できればケーキとか買ってきたいがわざとらしいよなあ……ごちそう用意しとくのもおかしいし、できるだけ自然に、でもこいつの好きそうなメニュー。 そうだ、ピザをとろう、とうなずきながら、酒とホラー映画の用意も忘れないこととする。 一人で頼むのは余りそうでいやなんだとか言えばデリバリーもあやしくないだろうし、ピザと言ったらコーラでしょ!からのビールに流れてホラー映画見せてぎゃいぎゃいやってもう遅いし泊まってけばァ?と日付変更線を迎える。完璧な計画である。 ホラー映画がこわすぎたから今日一人で眠れない、泊まってって、とかわいこぶるプランBも用意だ。おいおい、ジョセフ君の頭は作戦参謀並みか? 思わずふへっと笑みを浮かべてしまうと、隣の男が不思議そうに首をかしげる。 おっとあぶねえ、とぱちりとまたたいてから、ひらひらと片手を振った。
時計の針が真上を指すまであと五分。 泊まっていけよというミッションは既に達成していた。というか俺が言い出す前から『今日は泊まる気でいるんだが』とむこうに言い出されてしまった。飲みたい気分だったらしい。 今日のシーザーはやたらと上機嫌で、持参してくれた缶ビールも二人で全部開けちまった。 あとは俺の声が裏返らないよう演技をガンバルだけである。 「あ、そういえばオメー明日誕生日だっけェ?」 「はっ?そ、そうだが」 なんで知ってんだ、と目を見開く男に肩をすくめ、誰かから聞いた、としれっと答えてやる。 「んっと、まだちっと早いかな?でもまあ誤差ってことで!オメデトさん!」 へへ、と持っていたコーラ瓶を乾杯として掲げてやると、シーザーは目をかっぴらいたままかたまって、数秒経ってようやく「ああ」と返事をくれた。 その顔がさ、なんつうか、幸せーってかんじに見えちゃうの。 目のあたりとか赤くして、いつもぴしっと吊り上がった眉もふにゃっとしちゃってさ、口元もゆるゆるで、オメーそんな顔俺に見せちゃっていいの?って勝手にうろたえちゃうくらい。 「……イタリアって、あんまし誕生日とかお祝いしないかんじ?」 「え?いや、普通に家族で祝うが?」 「だよな?っていうか、あー、ちょっとまって、なんかプレゼント探すわ」 とかつってもうマーマレード用意してあるけどな! 気に入ってたろ、ひと瓶持って帰れよ、ってシミュレーションもばっちりのやつ。 もっと早く思い出してればよかったよなァ、なんていまのいままで忘れてたって顔も忘れずにソファを立って、冷蔵庫から適当にとったって顔でマーマレードを手渡した。 「気に入ってたろ、おすそ分け」 「いいのか?」 くすぐったいような顔で笑って瓶を両手で受け取った男が、ふと「あたたかいな……?」なんて呟いてうげっと思う。急いで作ったのでまだ粗熱がとれていなかったようだ。 「あ、あー……の、それおばあちゃんの手作りじゃなく俺が作ったやつだから、」 「JOJOが?!」 「俺が!」 だいじょぶ、味はオッケーよ、なんてピースサインとかしちゃったりする。 「まあ、うん、そういうことで」 どういうことだ?と自分で思うが、心臓がどきどきしてしまってそれどころではない。ちくしょう、俺が作ったもんだってバレるのは計算してなかったぜ。 でも、ほんとうれしそうにしてやんの。 たかがマーマレードぽっちでさあ、とむずむずしてくるほっぺを頬杖ついて隠しながら、ミッションコンプリート、なんて頭の中で呟く。 ふへ、と漏れてしまった笑みにちらりと視線を向けられるが、向こうは向こうでやたらとまぶしい笑みを浮かべているので何もおかしいことはなかった。
そうして、いわゆるオツキアイをはじめてから俺がひそかに実行してきた大作戦を口にすれば、それはちがう、と眉をひそめられて驚く。去年の誕生日のアレは俺こそがうまいことしてのけた結果である、と胸を張られたが、おかしなことを言うものだ。 くつくつと鳴る鍋をかきまぜながらぎゃいぎゃいと二人してキッチンで言い合ったけれど、完成したマーマレードを食べ終わる頃にはすべてを忘れ、午後に何して遊ぼうか、という話題に移っていたのだった。